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竹久夢二 殺人の記 岡山舞台一覧
トラベルミステリーの大家、西村京太郎さん。
その作品の多くは鉄道を舞台に用いており、岡山も複数の作品に登場します。
今回はその中から瀬戸内市を舞台にした「竹久夢二 殺人の記」の中から、岡山県内を舞台にしている場所を紹介します。
尚、記事中でトリックなどの核心部には触れませんが、舞台を紹介する上で作中で死亡する人物名など多少のネタバレを含むのでご了承ください。
東京の事件
作品は東京での殺人事件から始まります。
ミス岡山の4人が岡山物産の即売会で売り子をしています。
3月なので旬の果物は無く、ワイン、ママカリ、きび団子などがラインナップで、売れ行きはよくなかったそうです。
5~6歳の女の子がきび団子を購入した直後に、ミス岡山の一人が射殺されます。
確かに岡山県に3月が旬の果物で特産品と呼べる物はありません。
山陽大学
被害者は楠 ゆかり。岡山市北区内山下在住の山陽大学の二回生で、選考は仏文科です。
岡山県に山陽大学という大学はありません。
候補としては名前が近い山陽学園大学か、もしくは岡山大学を山陽に置き換えた可能性も考えられます。
しかし被害者の専攻が仏文科という点を考えると、岡山大学が人文学科の外国語・外国文学分野でフランスを扱っているのでこちらが有力とみていいでしょう。
十津川&亀井:岡山市へ到着
事件捜査のために岡山へ派遣されたのは十津川警部と亀井刑事です。
8:52東京発ののぞみ7号で岡山駅に12:10で到着しました。
駅コンコースのレストランで中央新聞の岡山支局長と合流します。
ここでは竹久夢二の話題が出ており、岡山市の夢二の絵を集めた美術館(夢二郷土美術館)と邑久町(現・瀬戸内市)の生家について話題に出ています。
尚、この2つはどちらも厳密には夢二郷土美術館で、前者の美術館が本館、生家は別館です。
その後で岡山東警察署への捜査協力の要請を行いました。
現在の東署は岡山市東区西大寺地区にありますが、本作発表時は現在の岡山中央警察署が東署でした。
その後で被害者宅を尋ねます。
内山下にある自宅は旭川に架かる相生橋から徒歩7~8分の距離です。
相生橋は岡山藩最後の藩主である池田章政と鑑子婦人の金婚式の祝として架けられました。
橋からは岡山城天守閣が望めます。
この後は岡山駅近くのホテルに戻ります。
ホテルの名前はK。1階がレストラン、12階が社長室です。
「駅近く」の感覚が東京人の十津川一行と我々で異なる可能性はありますが、駅近くに条件に合致するホテルは見当たりませんでした。
個人的には13階建ての後楽ホテルが怪しいように感じましたが、階数やレストランが2階だったりと相違点も目立ちます。
この後で事件の事情聴取のために岡山天守閣の見える場所にあるフランス料理店のラ・フランセへ行きます。
候補は幾つかありますが、特定に至るほどの情報はありませんでした。
十津川&亀井&阿部:夢二生家①
事件に竹久夢二の幻のスケッチが関わっている可能性を考え、2人は岡山県警の阿部を案内に加えた3人で邑久町の夢二生家へ向かいます。
本文中では、下記の3点が解説されています。
・昔のままの日本家屋
・竹の垣根
・家の周囲も舗装されていない
この内の竹の垣根については生家の方では見当たりません。
もしかすると竹久夢二のアトリエを再現した少年山荘の描写と混じっているのかも知れません。ちなみに一行は少年山荘にも立ち寄っています。
十津川&亀井&阿部:牛窓町
夢二生家を見学した後に阿部の案内で牛窓町(現・瀬戸内市)に食事に行きます。
その途中の小高い丘の上にある展望台から小豆島や、ヨットハーバー、そして牛窓に残る古い町並みを見学しています。
展望台の条件は広々とした駐車場がある事です。
景色からの条件だとミティリニ広場が合いそうですが、駐車場の条件と一致しません。
充分な駐車場を持ち、「道の傍にオリーブ園」や観光客が2~30人もいるとういう描写から、牛窓オリーブ園から見たと考える方が近いように思います。
作中では島々の名前が刻まれた銅板とありますが、オリーブ園にも銅ではないものの同様の看板が設置されています。
条件が合致しないのは看板の材質だけではありません。
この看板がある辺りからの景色はこちら。
ご覧の通り看板がある辺りからではヨットハーバーなどが見えません。
位置関係はオリーブ園、見える景色はミティリニ広場という架空の展望台でしょうか。
古い家並みについてはどの辺りの地区かは明記されていません。
ただし牛窓で古い町並みと言えば、しおまち唐琴通りがあります。
今回の事件の肝となるのが、これらの古い建物を倒して白いギリシャ風の建物を作り、日本のエーゲ海としての町づくりを強化する「新日本のエーゲ海構想」という再開発計画でした。
亀井刑事も古い家並みについては「日本風の家が立ち並んでいるのは、エーゲ海という名前と、ちぐはぐですねぇ」という感想を抱いています。
(ヨットハーバー 写真提供:岡山県)
日本のエーゲ海というキャッチコピーは、温暖な気候で多島美という共通点や、命名した1982年当時はヨーロッパ旅行が人気だったことから、それにあやかろうとしたという事情もあるそうです。
3人はこの後で海岸沿いの最近できたばかりの中華料理屋に行っています。
そこでは瀬戸内海のエビなどの海産物が入った特製ラーメンが食べられました。
この店については当時あった可能性は考えられますが、現在はそうしたメニューを提供している中華の店は見つけられませんでした。
十津川&亀井:邑久町②
十津川警部と亀井刑事は夢二生家で下ろしてもらって、再び夢二生家を訪れています。
先程の訪問時は岡山県警の阿部に遠慮していたのか、今度は存分に芸術鑑賞を楽しんでいます。この後の展開でもかなりの夢二フリークぶりを発揮しますが、そもそも芸術鑑賞が好きなのでしょうね。
本文中に登場する感想ノートも実在します。(2022年1月現在)
そして生家跡から邑久駅まで徒歩で向かいます。
生家跡から邑久駅までの距離は約3km、時間にして40分程度かかります。
普段から事件捜査で歩き回っている2人にとっては大した距離ではないのでしょうが、出張で岡山に来ている事を考えるとタクシーでも利用すればいいのに…と思ってしまいました。
十津川&亀井:岡山タイムス
岡山に戻った2人が向かったのは岡山駅の近くにある「岡山タイムス」という新聞社です。
完全な地方紙という記述があるので山陽新聞か、2011年に廃刊になった岡山日日新聞のどちらかです。
やり取りの中で牛窓の再開発計画に対して「大新聞が賛成の論陣を張っているので、それに噛みついてるわけですよ」と反対の立場を表明しています。
この大手というのが県内の新聞を指すのか、それとも五大紙などの全国紙を指しているのかは判断が出来ませんでした。
前者の場合は岡山日日新聞、後者の場合は山陽新聞の可能性もあります。
ちなみに新日本のエーゲ海構想とは、大きく4の事業が挙げられます。
・白壁の高級別荘群
・高層マンション
・庭にオリーブの樹を植える
・丘の上にホテルのような老人ホーム
十津川・亀井:牛窓町
昨日の岡山タイムスで聞いた再開発の反対派の拠点となっている喫茶店へ向かいます。
店名は真呑奈(マドンナ)です。
古い町並みの中にある喫茶店で画廊を兼ねている…ということで、モデルは牛転(ウシマロビ)でしょう。
翌日もこの店へ向かいますが、途中の書店で夢二関連書を買い込みます。
夢二フリークの真呑奈の店主も舌を巻くほどの博学ぶりを見せつけます。一夜漬けの知識とは思えないので、元々好きだったのでしょう。
牛窓関連では土産物店の「しろがね」と、夕食をした魚料理の店が登場します。
この2つは特定できませんでした。
食事をした店は魚料理、2階の座敷と情報は多いものの、条件に当てはまる店が見当たりませんでした。ちなみに食べたのはアジです。
第二の殺人(岡山市)
岡山市で発生した第二の殺人事件の現場は岡山城近くです。
後楽園の周りの遊歩道です。
後楽園に入園しなくても歩ける歩道で、朝夕は健康の為に歩いている人が多く見られます。
その周りを流れているのが旭川です。岡山城の守りを高める為に流路を変えた堀の役割を果たす川です。
作中では凶器が捨てられた可能性があるとされています。
夢二郷土美術館本館
その後で夢二郷土美術館本館へ向かいました。
(写真提供:岡山県)
この建物に向かう為に通ったルートは蓬莱橋です。作中で女性が館長を務めていますが、実際は歴代の館長は男性です。
美術館を運営しているのは岡山でバスを中心に様々な事業を展開する両備グループで、館長は歴代そのトップの人物が務めています。
この記事を書いている時点での館長は小嶋光信さんです。(2022年4月現在)
ここで一旦十津川は東京に戻ります。
事件関係者の潜伏先
行方が分からない事件関係者の潜伏先として美作三湯が登場します。
展開としてはやや突飛な感じで、共犯と思われる事件関係者の近くにいるはずだから岡山、そしてどこか潜伏しやすい場所として温泉旅館…という連想です。
この会話の中で「岡山県の瀬戸内海沿いには、温泉はない」と断言されていますが、実際は県南でも湯迫温泉や苫田温泉といった温泉地があります。
美作三湯は岡山県の北部にある湯原、湯郷、奥津という3つの温泉地の総称です。
奥津温泉は映画化された文学作品の秋津温泉のモデルになっています。(関連リンク:秋津温泉の岡山舞台一覧)
岡山に残っていた亀井刑事が先に調査に回り、湯原温泉と奥津温泉に潜伏していない事を確認しています。
そして湯郷温泉で十津川警部と合流しました。
(写真提供:岡山県)
十津川警部は湯郷温泉へタクシーで向かいました。
タクシー運転手は所要時間を「二時間ってところですかね」と答えています。
直前に阿部刑事と共に牛窓を尋ねており、二人が分かれた場所が牛窓町なのか岡山市なのかは文面からは分かりません。
しかしタクシー運転手の意見が正しいとすると、渋滞の影響が強く出る岡山市からの出発でしょう。牛窓からの出発だと2時間はかかりすぎです。
岡山市を抜けて急に田園風景に変わった事から、「このまま行って、本当に、温泉街に辿り着くのかね?」と疑問を抱いた十津川警部。
このように川沿いに開けた土地に旅館などが立ち並ぶのが湯郷温泉の温泉街です。
亀井刑事が宿泊していたのはR旅館。
Rという条件に合致するのはリゾートイン湯郷です。
事件が起きたのは3月の半ばなので、もしかすると他の温泉旅館よりも急な予約が取りやすかったという事情があるのかも知れません。
これ以降は事件は鳥取県に移るので、紹介するスポットは以上です。
本作は舞台が近距離に集中しているので、車があればちょうど1泊2日くらいで回れます。
訪れた場所も観光スポットが多いので、旅行のお供にいかがでしょうか。